「それいゆ」初体験、少女とハハの物語◆

ある日、ハハと少女は暑い都会へ出かけました。
いくつか所用を済ませたのち、「本日のメインイベント」(少女にとって)である、広尾の「それいゆ」に行きました。
駅からすぐ、明治屋の向かいにある小さなショップは中原淳一でいっぱいでした。

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はじまりは、一冊の雑誌でした。
ハハが以前にこのコラムで紹介した美輪明宏の「おしゃれ大図鑑」からのつながり(こちらからどうぞ)で、購入した別冊太陽、「美しく生きる 中原淳一 その美学と仕事」。

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ハハが自分用に購入したものでしたが、これにはまってしまった少女がひとり、いたのでした。

時間があればページを繰って、ときおり絵を模写したりして、「少女の友」や「ジュニアそれいゆ」を購読したいと言い、「もう、いまはないよ」とハハに言われ、「あーあ、淳一(←よびすて)が雑誌出してる時代に生まれたかったなーっ」と嘆き、「あたしも」とハハが同調し……そんな日々を送っていましたが、ようやく中原淳一ファンの聖地である「それいゆ」の扉を開くことができたのでした。


ふだん、自分本位で生きているハハも、少女の、このような表情を見るためなら「どんな苦労も厭わないわ」といきなり浪花節っぽくなるくらいに、少女の横顔は、なんともいえないエナジーで輝いていました。

店内には、それこそ夢にまで見たものがあふれかえっているわけですから、目が泳いじゃって泳いじゃってたいへんです。

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もっとも悩んだのが、やはり雑誌、本関係で、もっとも欲しかったのは「ジュニアそれいゆ」の復刻版セット。
しかしながら高価だったので、ハハが却下。

許可された三冊を手に取り、なんども中を見て、お店の方(おふたりいらしたのですが、おふたりとも、とっても「それいゆ」でした! 注:それいゆ=フランス語で太陽、の意味です)と相談しながら、ようやく決定したのは、もっとも大きな一冊でした。
いわゆる大型本、というものです。画集ですね。

「買ったらぜったい自分で持つのよ」というハハの言葉が重くのしかかったようですが、それでも欲望が勝ったようでした。

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帰りの新幹線で、少女は嬉々として大型本を広げ、「このなかでどれがいい?」とハハに話しかけ、ハハは「そういうの、やめてって言ってるでしょ」と冷たく返しつつも、ついつい美しいデザインに身を乗り出して、「あたしはコレだな」と、コメントし、「いいね、きれいだね」と少女が言い、「そうなのよ、こういうかちっとしたハンドバッグが欲しいのに、いまはないのよねーっ」などとハハが憤慨して……そんなふうに時が過ぎました。

***

帰宅して、眠いはずなのに、少女はやおら部屋の片づけを始めました。
「いったい何が起こったのか!」とハハは驚きましたが、すぐに「なるほど」と頷きました。
「それいゆ」で、画集のほかにも小さなシールと、いわゆる「紙袋」を買ったのです。図柄が気に入って、「部屋に飾るために」買ったのでした。

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さて、少女が購入した大型本の裏帯には中原淳一の言葉が大きく載っています。

***
「おしゃれな人」とは、どんな人でしょう?
それは美しくありたいと思う心が、ことさらに強い人のことです。……上手におしゃれをして、人の心をたのしくさせるような人になってほしいと思います。
***

深読みをして、「おしゃれ」とはなんて難しいのだろう、としみじみ思うハハなのでした。

おしまい。


*写真などはこちらから。詳しく掲載されています。


中原淳一公式サイトはこちらです。



山口路子プロフィール写真

山口路子

プロフィール
作家。2001年に東京から軽井沢に移住。
著書に『彼女はなぜ愛され、描かれたのか』(すばる舎)などのエッセイ集、小説『女神<ミューズ>』(マガジンハウス)など。軽井沢を舞台にした作品としては、小説『軽井沢夫人』(講談社)がある。
公式ブログ*山口路子ワールド*
http://anais.cocolog-nifty.com/blog/

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