サムソナイト物語★

あるところに、スーツケースの購入を希望している殿方がいました。
今までに使っていたスーツケースが古くなって壊れそうなのです。
殿方は言いました。
「今度は安くてかっこいいのを選ぶぞ。ノーブランドでもいいのがたくさん出ているんだ」。
そしてネットにて、さまざまなタイプを検証。
結果、「これだな」と思える一品を選び出しました。
中型のハードタイプなのですが、信じられないくらい安価なのです。
リモワ級のものと比べたら、ゼロがひとつ少ない。
……。
さて。
殿方はスーツケースの到着を楽しみに待ちました。


「即納!」とあっただけあって、すぐに届きました。
楽しみに開封しました。
そしてコロコロと転がしてみました。
するとすぐに、何箇所かにあった、その会社のブランド名が記されたタグが剥がれ落ちてしまいました。

殿方はたいへん不安に思いました。
そして、近くにいた妻に言いました。
「これ、どう思う?」
妻は言いました。
「いかにも安いです、って顔してるし、それに、その剥がれ落ちたものって、いかがでしょうか。全体的に不安で、私ならとうてい海外へは持っていけません」

ということで、殿方は、そのスーツケースを返品することにしました。
元通りにダンボールに入れて、宅配便を手配して、けっこうな手間です。


さて。
次に、殿方は東京のいくつかのショップにてスーツケースを物色。
けれど、「これだ!」というものに出会えません。

殿方のイメージしている価格と品質とデザインが一致しないのです。


そんなある日、妻が言いました。

「そうだ。プリンス、行ってみる? サムソナイトのアウトレットがあるから」

「サムソナイト? 今回はノーブランドで、という方針に反するなあ」

「でも、それだけ見てなくて、しかもノーブランド激安商品に懲りたでしょ」

「そうか。行って見よう」


……。

プリンス、ウエストにある「サムソナイト・アウトレット」に入店して三十秒後。
殿方は言いました。
「これにする」
たしかに、価格といい(つまり、嬉しいプライスダウン)、品質といい(さすがのサムソナイト)、デザインといい(シンプルな美しさ)、イメージにぴったりでした。


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しかも、そのまま車に積んで持って帰れるという手軽さ。
殿方はたいへん満足しました。


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以上、ある日のサムソナイト物語でした。



山口路子プロフィール写真

山口路子

プロフィール
作家。2001年に東京から軽井沢に移住。
著書に『彼女はなぜ愛され、描かれたのか』(すばる舎)などのエッセイ集、小説『女神<ミューズ>』(マガジンハウス)など。軽井沢を舞台にした作品としては、小説『軽井沢夫人』(講談社)がある。
公式ブログ*山口路子ワールド*
http://anais.cocolog-nifty.com/blog/

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